Fels’s blog

読書記録、日々の雑感、その他。

読書記録:福沢諭吉『福翁自伝』

水村美苗著『日本語が亡びるとき』に感化され、日本近代文学や古典を読んでこなかった自身を恥じ、何でもいいからそれらを読まねばという焦りに駆られて読みました。落ち着いて考えれば古典でも文学でもありませんが、読み応えはあったのでよしとする。

 

まず上にも書きましたが、ボリュームがすごい。通勤時間の毎日1時間弱を利用して読み進めましたが、読了まで1ヶ月かかっていました。
自伝というジャンルは初めての経験ですが、これはその中でも大作の部類かな。

 

福沢の記憶力に脱帽しました。この自伝は、彼が話す内容を速記者に書きとらせるという形式で書かれたそうですが、福沢は簡単な年表を手元に置くだけで他に資料は一切使用していないとのこと。にもかかわらず、出来事の年月日は言うに及ばず、それに関わった人名など事細かに述べている。何だったら夜中の何時に何丁目の角を曲がったところで、とかとにかく仔細まで覚えている。歴史に残る人物はやはりどこかずば抜けているんですね。

 

岩波文庫の色あせしきったもので読んでいたためか、本を開くたびに香ばしい古紙の匂いをいつも嗅いでいました。kindle paperwhiteを買ったので今後の主な読書手段はそちらとなりますが、嗅覚も含む読書体験は紙の本じゃないと出来ませんね。

 

読み始めからしばらくはこの時代の文体に慣れませんでしたが、次第にこの文体がかっこよく思えてきて、むしろ今の文体がスカスカした軽薄なものに思えました。

 

しかし100年以上前に生きていた人の文章を現代の私たちが普通に読めるというのは、改めて考えるとすごいことですね。いつか必ず実になる読書体験でした。